企業探訪

企業探訪 vol.002
渉水産(男鹿南秋地区会)
海を守り、地域を守る。はじめたのは水産業の「六次化」だった。
【2014年4月号】渉水産の鈴木渉さんは、後継者不足による「漁業の衰退・地域経済の衰退」に危惧の念を抱いている。重労働と所得のバランスが崩れている現在の漁業の在り方に、真っ向から立ち向かい、「六次産業化」に挑戦し現在奮闘中の姿。経理営業部長の下間佳子さんにその取り組みを赤裸々にお話しいただきました。
秋田県における農林水産業分野の、陸の生産性は1,800億円、海の生産性はうち30 ~ 40 億円(2013 年時点)。総延長263km に及ぶ秋田県の海岸線を大切に育めば、まだまだ伸びる余白があるそうだ。しかしながら秋田県漁業を支える漁業従事者の平均年齢は75 歳。過酷な労働を伴うことも少なくない漁業の現場。その重労働と所得のバランスから従事者の高齢化も進み、事業承継の問題を抱えている。 「この状況をなんとかしなければならない!」「元気な男鹿を取り戻さなければ!」こんな思いで渉水産の鈴木代表と下間部長は2013 年3 月から新しいビジネスモデルに挑戦を始めた。
 「自分たちで生産して、自分たちで加工して、自分たちで販売する」。農業や水産業などの第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態を表す、まさに六次産業化だ。もともと男鹿には水産物を加工する会社はあるのだが「自分たちですべてを行う」会社は「渉水産」が初めてのこと。
販売ルートや経営については丸水秋田中央水産の元会長を相談役に迎え入れ指導を仰いだが、乏しかった加工技術は三陸の加工工場へ下間部長が何度も足を運び、持ち帰った知識・技術を従業員へ教えながら現在の体制にたどり着く。 高品質にこだわった手作りの商品は、大量生産が出来ず、
前年は途中で完売となってしまう。わかめ・昆布養殖は1本100 mのロープに種付をするのだが渉水産では現在24 本(前年対比+6本)とし、わかめ・昆布の養殖では秋田県内で最大級となる。今年は増産体制とともに、人材を新たに雇い入れ加工体制も見直した。 今年2 年目を迎える「渉水産」。新しいことに挑戦する姿には学ぶことが多い。感じたことは鈴木代表の起業のきっかけである「この状況をなんとかしなければならない!」「元気な男鹿を取り戻さなければ!」という強い想いだ。そしてその想いを周りの方に発信し、下間部長をはじめとする、共感する人が集まりだしたことで新しいビジネスモデルの一歩を踏み出すことができたのではないだろうか。ここで強い想いをもつこと・伝えることの重要性にあらためて気づかされた。
また、新しいことに挑戦するからこそ生まれている地域への新たな雇用の創出である。六次産業化として生産・加工・販売まで行おうとすると、漁のみを行っていた時よりも人手が必要だ。加工により商品の価値を上げるとともに男鹿の魅力を食で発信。新たな仕事をつくりだし、地域に雇用を創出する。渉水産の取組みはまさに「地域を元気にする大きな一歩」と言える。現在は10 人を雇用(内障がい者を2 名)。鈴木代表は次のように語っている。
 「ただ雇用を生み出すわけではない、障がい者が職業を通じ、誇りをもって自立した生活を送ることができることも目指している」。この言葉には胸を打たれた次第である。
 より良い地域社会を目指して挑戦と革新をし続ける「渉水産」。その想いの強さと実践力に深い感銘を受けるとともに、企業の在り方・地域社会の在り方を深く考えさせられた。
取材・文/二方淳介
太陽印刷㈱ 専務取締役
会社概要

渉水産
〒010-0531 秋田県男鹿市船川港台島字鵜ノ崎49
Tel:0185-27-8666
Fax:0185-27-8667
■ホームページ:http://www.wataru-k.com/

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