「うつ病で苦しむ人のない社会に」の想いで移住を決意

　尾崎さんが、仙台にあるまちおこし専門のコンサルタントの社員として、はじめて秋田県仙北市を訪れたのは2015年。そのきっかけは、2011年に尾崎さんのご主人が心の病気「うつ病」になってしまったことにありました。一時は入院が必要であった時期を乗り越え職場復帰し、安定した生活が可能になっていたことを機に、尾崎さんは「夫婦で支えあいながら、互いが夢のために生きる生活をしたい」とご主人に相談します。ご主人は快く尾崎さんの申し出を受け止めてくださり、仙北の地にやってくることとなりました。なぜこの地かといいますと、ご主人の看病に
かかわる中で大学教授、医師、カウンセラーと様々な人から学び始める中で、ある論文と出会ったことがきっかけといいます。それは「風光明媚な土地での農作業にはうつ病の改善や予防に効果がある」という内容だったそうです。「うつ病で苦しむ人のいない社会になれば…」といつも思っていた尾崎さんには人生の転機となったといいます。仙北市の農業、林業が盛んな自然豊かさに想いが一致し、耕作放棄地での農作業を活かしたストレスマネジメント研修を事業化することを決意し、地域おこし協力隊として移住することを決めました。

理解されたければ、まず自分から

　移住した当初、「ストレスマネジメント」や「メンタルヘルス」という言葉になじみがなく、事業計画について聞いてくれる人はいても、理解を示してくれる人は少なく、地域の中で事業化することに不安を抱くことも少なくなかったそうです。そんなときに、コンサル時代から付き合いのあった経営者に誘われ、同友会の地区例会にゲストとして参加したことは一つの転機となりました。
　お客様、地域、社員に関わる全ての人の発展に向けて学ぶ経営者たちの姿に、何のために、何をするのかを考えコツコツ継続すれば、未来は開けるかもしれないとの前向きな意欲が湧いてきました。それからというもの、「1年や2年で理解されようなんて思わず、地域住民として住み続けること、地域の中で仕事を続ける姿で理解してもらえたら有難いと思えるようになった」と当時を振り返ります。

10～20代の若者たちの早期離職率は30％以上

　2017年法人を設立し、営業活動を行う中で「ストレスマネジメント」の相談をもらう理由の多くが「若手社員の早期離職」によるものだという気づきがありました。自社の未来を託そうとする若手社員が育てる前に辞めてしまうことは多くの企業の課題だったのです。先日、秋田県内の就職希望の高校生を対象にした「早期離職予防」の相談を受けたときにも、高校生の早期離職率が40％を超えているという話題になりました。そのうえ、18歳の人口は10年後には15万人も減少します。新卒採用をすること自体が困難になるのに、採用した社員が早期離職してしまうのです。
　更に、「うつ病で苦しむ人をなくしたい」という想いを発信することで、「メンタルヘルス」に関わる相談を受ける機会は増える一方とのことです。医師ではない尾崎氏が出来るのはあくまでも「予防や完治した後の復職の手伝い」であり、「ストレスマネジメントの方法」を伝え、研修の受講者が継続出来る方法を提案するところまでということに葛藤があるともおっしゃいます。

今後の展望

　ストレスチェックが50人以上の事業所で義務化され、現在は努力義務とされている事業所も数年後には義務化の対象となることが予測されます。これまで、ストレスマネジメントへのなじみがなかった多くの人が自分のストレスの状況を自覚し上手に付き合うことで、仕事も私生活も有意義なものになり、精神的にも肉体的にも安定した生活が送れるようになることは「うつ病で苦しむ人をなくす」という尾崎氏自身の夢でもあ
ります。
　「今年、あきた同友会の第11期経営指針を創る会を受講することに大きな期待を寄せています。初めて同友会の例会に参加した時とは異なり、自分が経営者になった立場で、何がわかっていないのか分からないという日々の不安を払拭するには、優れた経営者とはどんな人物であるのか徹底的に学び、トライアンドエラーを繰り返すことだと思います。その過程で、ストレスマネジメント研修を通じて社会貢献ができる法人として成長したい」と語る尾崎氏。まだまだ発展途上ではありますが、10年後、理解者が増え、地域に愛され、社会に必要とされる法人を目指して尾崎氏は挑戦します。