亡き夫からのメッセージを受け止め。

　　「ご主人さんは、常にあなたのそばにいるんですよ。でも自分で話すことができないですから、周囲の人の口を借りて、あなたにメッセージを送っているんですよ」と知り合いの経営者夫人から語られたひとこと…。なるみ酒店の笹山美子社長は、２代目社長であった夫君が7年前にお亡くなりになり、専業主婦から3代目社長として平成23年4月に就任。生前、先代は「経営者としての『覚悟』を持てなければ店は継がなくてもよい」とおっしゃっていたと。先の経営者夫人から語られた言葉と、『覚悟』の意味をかみしめ、「日々自分を鼓舞しながら経営に勤しんでいます」と話します。

なるみ酒店ならではの店づくりに奮闘

　なるみ酒店の創業は、昭和39年。笹山社長のお父様が創業されました。小売販売として十分に経営が成り立っていた時代。しかし、時代の変化とともに、現状維持では立ち行かなくなると経営強化に努めてきたのが2代目社長であったとのことです。常に『生き残り、生き残り』を口癖に、平成11年に代表に就任して以降、業務用酒販売を開始。また酒販コンサルト会社であるKLC グループや、WONK（ワンク）に加盟し、定期的に全国酒販店との勉強会に参加しては、専門知識と人脈を構築し、学びをお店に反映していくなど、大手チェーン店にはない観点で、店づくりに努力されてきたといいます。また、平成19年には秋田市保戸野に存在している本店の他に、『料飲店の冷蔵庫代わりに』との想いから、秋田一の歓楽街の川反に「大町店」を開設。一本からの配達にも応じるサービスを心掛けています。本店は、平成21年に日本名門酒会に加盟したことを生かし、日本酒に力を入れていらっしゃるとのこと。県外からのお客様も含め、限定酒、希少酒などを探し求める方が多くいらっしゃるそうです。

量販店では培えない社員たちの能力を支えに

　そのような2代目社長の想いを継ぎ、３代目としての覚悟を笹山社長は、「100年企業を目指して、時代の変化に合わせてお店も変化し続けなくてはならない。社員たちと小さなお店ならではの身の丈に合った小さな一番を目指していきたい。」と語ります。その中心はやっぱり社員だと。個性が見事バラバラな社員たちだそうですが「長所も短所も持ち味として、長所を大いに発揮してもらい、それをまとめてゆくのが私の役目かな」とも。今では「その個性の結集が『量販店では培えない社員たちの能力』として誇りに思えています」と目を細めます。「対面販売が売りの本店では、やはりお客様からの生きた情報を直接伺えることが何よりの宝物。お客様が何を求めて、どういう困りごとがあるのか、会話を通してきめ細かく対応できる点ですかね。そのためには商品の知識もなくてはならないでしょうし、わが社だけではできないことは、他の業種の方と協力しながら対応していくことを考えます」と。
　お客様のニーズによって生まれたサービスの一つには、お祝い事用のプレゼントして、お花屋さんとコラボし、フラワーアレンジメントを添えたお酒のバスケットや、布製品を扱うお店とのコラボでは手ぬぐいや風呂敷を利用してのラッピング、彫刻師とは酒類の本体、またはグラスにメッセージや名前を彫ってもらい世界で一つの贈り物としてのサービスがあるそうです。また、地域住民へのサービスの一つとして、ビールサーバーの貸し出しは市内では断トツのようです。社員全員が取り扱いの講習を受けているので、衛生面の管理や取り扱いの指導など、きめ細かなサービスが多くのお客様からの支持を得ているようです。「小回りの利く丁寧なサービスを迅速に、一歩ずつ積み重ねています」とおっしゃいます。

ロマンとソロバンを両輪に

　お客様に教えられることも多いのですが、お酒の事なら『なるみに相談しよう』と頼りにされる「専門店化」を目指していきたいと思います。そのためにも蔵元さんとの関係性をさらに深め、勉強会をしながら知識の習得にも励んでいきたいと思います。やりたいこと、やらなくてはならないことはたくさんあるのですが、今一番頭を悩ましていることは、求人活動とまだ先のことではありますが、事業承継の知識です。同友会に入会し、そういうことへの知識などを得られたらいいかなとも思っております。
　経営者として7年間歩んできましたが、生前夫が日本中を駆け回っては、何か一つを持ち帰り、自社に取り入れてきました。今思うとその気持ちがよくわかります。でも男の人はロマンばかりを追い求めて、肝心な足元を見ることを忘れがちになります。そういう時は私が意見していたように記憶していますね。
　しなやかな語り口にも、凛とした冷静さを漂わせる笹山社長さん。きっとロマンとソロバンの両輪のバランスをとりながら、経営手腕を発揮していくことと思います。これからも同友会をどんどん利用して学んだことを自社に取り入れてほしいですね。応援しています。